

Pity kitty high school
午後の授業の為、体育館に集まったモンスター科の生徒達。
だが待てども待てども学園長である愛沢・ぺてぃ・らびぃは現れません。
そこでぱふぃの提案により授業内のペアに分かれ、 学校内を探索することになりました。
このページで探索するのは「図書室&来賓室」です。
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床から天井まで埋め尽くされた本の森。扉の隣にはちょこんと貸し出しカウンターはあれど、
他に目につくものは本、本、本。
🪞「図書室ですねえ。……あ、これおもしろそう……」
本棚にも負けじと背の大きく育った二人、花散里リリィと沈香堂凍メル。
沈香堂は本棚に興味を示したようだ。花散里はカウンターに腰掛け動くつもりはないようで、
🫖「なぁに?? メルちゃん、わたくしにも見せにきて?」
と、わたくしがルール!とでも言うように待っていた。まるで女王様のようだ。
🪞「絵本が多いですねえ。……おや、これなんかかなり古いですねえ?
かぞくのおきて……ふむ!」
立ち寄った本棚には絵本が収容されていたようだ。
有名な童話やおとぎ話から、背表紙だけではパッと内容の思い当たらないような地方のものまで。
その中の1つは特段古びており、何度も読み古された跡がある。「かぞくのおきて」という題名だった。
花散里はそのホコリ臭さに顔をしかめたが覗き込む。
🫖「かぞくのおきて? 面白くなかったら燃やしてやりましょうね」
『かぞくのおきて ███ちゃんは かぞくがだいすき!
いつもお██さんから きたいさ█ています きょうもきたいにこたえ██とおおはりきり!
でもうま█おて██いできません おかあ█んはそれでも███ちゃんを信じていました
かぞくよりつよい██な など そんざいしないからです
███ちゃんは いつまでも█かあさんのために かぞくのことばを 忘れませんでした』
ところどころ破れた跡が丁寧にマスキングテープで補修され文字に被さっている。
そこから先のページは破かれ紛失しているようで。
🪞「……うん? 本当に古い本みたいですねえ。大事にされてはいるみたい、ですけど。
燃やしちゃったら怒られちゃいますよお」
🫖「この学校の誰かのお話かしら。盗み見たようで後ろめたいですわ…
元あったところに返してきなさい」
🪞「わかりましたあ」
本の隙間に絵本を返して、沈香堂はそのままカウンターへ目をやった。
貸出に使うのであろうバーコードスキャナーに繋がれ古びた箱型のモニター、
つまりパソコンが起動されている。
画面には履歴が表示されており、つい15分前の項目に
「愛沢・ぺてぃ・らびぃ 『生物遺伝子について』57巻 貸出」 と書いてある。
🫖「生物の遺伝子……なまもの……ああクロカンブッシュが食べたくなってきましたわ。」
🪞「わたしたちにもちょっと縁があるワードですねえ、
なにか研究でもしてらっしゃるんでしょうか。57巻もある…」
🫖「ご大層な趣味ですこと」
興味のなさそうな花散里にうんうんと相槌をうって、他の本棚へ歩みを進めた。
🪞「終わったらおやつにしましょうねえ」
この棚には数学や国語などの参考書や、情操教育についての本が並べてあるようだ。
どれも年季が入っており付箋のお花畑がつくられている。
本の中には全ておなじ筆跡で沢山のメモが書き込まれていた。
共用の本ではあるものの、ほぼ私物化されているようだ。
🫖「真面目な方がいらっしゃるのかしら?素敵ねぇ、わたくしはそこまで暇じゃないけど」
🪞「他に借りる人もいなかったんでしょうか。
誰かの教科書になっちゃってますねえ…勉強熱心なのはいいこと、ですよね」
じぃ…とよく見てみれば、それは授業中の黒板でよく見る愛沢・ぺてぃ・らびぃのものだった。
突然、スピーカーから耳をつんざくような大音量で
「こんにちは〜〜っ!リンベルだよー!へへっ、ねえこれ、ほんとにみんなに聞こえてるのかな?アムもなにかしゃべってみてよー!」「うえっ!?ええっと…ええっと…ア、アム…だけど……うう゛…」
…と声が聞こえてくる。2人はどうやら放送室にいるようだ。
「おもしろいねぇ、これは音楽?」
Ring-Bellの声のあとにカチャカチャと機材をいじっているであろう音が聞こえると、
突然その爆音でぴか高の校歌が流れ始め、 「ぎゃあー!うるさい!」彼女がそう言って、BGMは停止される。
「あ~…そうだ、学園長〜もう午後の授業の時間とっくにすぎて…ます…」
それを最後に、スピーカーは沈黙した。
🪞「わあ、リンベル……と、アムだねえ。わあっ おもしろいことやってるね、ふふ……」
🫖「もう!なんなんですの!?…わたくし達も面白いことやりたいわ」
🪞「わたしたちも? おもしろいこと? ううん……どうしよ。今からお菓子とか作ります?
探索とかなかったことにしていっぱい作ってみんなに配るとか!」
🫖「そんなのいつもと変わらないじゃない、もっとべるたちに負けないくらいすごいことをしてみせなさいよ」
🪞「すごいこと?ううん……そうですねえ…… バスとかハイジャックします? それで校庭を爆走してみるとか」
🫖「イヤだわ、わたくしに運転させるおつもり?
…そうだわ、ここの本を全部グラウンドに放ってしまうのはどうかしら?楽しそうじゃない?」
🪞「わあ、あとから弁償とか要求されそうですねえ。
おもしろいこと……体育館でトランプタワー作るとか?
この本たちで。何ならおもしろいかな~」
🫖「ダメね、わたくし労力をかけずに楽してたのしいことがしたいんですの。」
怒涛の"おもしろいこと"の考案も、花散里にはお気に召さないようだった。
🪞「でもこの本が例えばちょうちょになって飛んでいったりしたらおもしろいですよねえ、
そうだったらグラウンドにでもなんでも放ってましたが……
そういえばそのグラウンドには誰か行ってるんでしょうか」
カウンターの後ろ、本ばかりの部屋に差し込む光源のさきには
広大なトラックと片隅にパステルでカラフルな遊具の一角が見えた。
フェンスで区切られたその遥か向こう側に、コロニーと外を分ける壁がぼんやりと遠くに見えている。
まだグラウンドには誰もいないようだ。
🫖「お外に出るなら日光浴したいですわ〜…」
次の瞬間、ギュイーン!とカッコイイギターから始まる、ロックバンドの曲だろうか。
先程とは違い丁度いい音量でBGMが放送され始めた。
🪞「わあ。またなにかしてるみたいですねえ。これは……誰の趣味なんでしょう?
でも、そういえば学園長を探さなきゃ」
🫖「ああ忘れていたわ、捜さないといけませんわね。
聞いてのとおり他の者は遊んでいるようですし…わたくし達が引導を渡すしかありませんわ。」
🪞「引導! お供しますねえ」
校長室前まで移動した2人。
だが肝心の扉は鍵がかかっているようで今は入れないようで、隣の来賓室なら入れそうだった。
🪞「……おや。閉まってますねえ。こっち行ってみます?」
🫖「あら…いざとなったらメルちゃんがえいってこじ開けてちょうだいな。」
🪞「まあ。わたしの実力を見せるとき、ですねえ」
生き生きとした花の香りが部屋いっぱいに充満している。
つやつやに磨かれた花瓶、お湯の入ったケトルとティーパック、
壁に飾られた愛沢・ぺてぃ・らびぃ学園長の写真…
綺麗に掃除されまだ新しい百合の花が飾られた来賓を迎え入れるための部屋は、
今にもお客を持て成す準備万端のようだった。
なかでも一際目を引く、壁に大きく飾られた学園長。
なんだか重々しい椅子に腰掛けあさっての方向を向いている。
彼女しか飾られていないのは開校して日が浅く他に就任した人間…
もとい、モンスターがいないからだろうか。
そんなことを考えながら見つめていれば、2つの瞳がぎょろりとこちらを向いた。
目の錯覚か気の迷いかと瞬きをすれば、もう視線はあさってへ戻っている。
🪞「……? なんだか、今……」
🫖「きゃっ…もう嫌〜…この部屋居づらいですわ、早く出ましょ…」
ケトルとティーバックに興味を惹かれていた花散里も怯え、沈香堂を盾に隠れてしまった。
🪞「あれ。お姉さまにも見えたんですか?生きてるのかなあ。
一回見てみたらわかるかな…先に出ていますか?わたしはもうちょっと見ていきます」
隠していた目をあらわにして、邪視で肖像画を睨め付けるも特段変化はない。
それもそうだ、絵が生きているはずがないのだから。

🫖「知らないですわぁ、いや!生きているなら殺しておしまい…!
えっ…わたくしをひとりにするの!?う、う…まだ一緒にいますわ…」
🪞「おや……そうですか? なら二人でいましょうねえ。
あは、やってみます?本当に殺してしまったら……その時は共犯、ですよ。……なあんて」
その言葉を聞いて、その白魚のような両手がぱっと開かれた。
🫖「イヤよ、わたくしは手を汚してないもの。貴方が勝手にやったのよ?
調べ物があるならさっさと済ませてちょうだいね」
いじわるそうに笑うお嬢様に、邪視をしまったお嬢様はやさしく微笑みかける。
その瞬間、きんこんかんこん…と授業終了のチャイムが鳴った。