

Pity kitty high school
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▷星砕とわり
私たちが水族館に派遣され、そして海先輩だけを残し帰還してから数日。
先輩抜きで先輩のお葬式が簡易的に行われて、
たった一ヶ月前初めて着たまっくろいお洋服にこんな頻度でまた袖を通すなんて。
もうお作法を覚えてき始めてしまったことにもなんだか胸がぎゅってこわばります。
変ですね、死後硬直はとっくの昔に解けてるのにな。
ティティ先輩はみんなのいないところではずっと眉根に皺を寄せていて、
恋先輩は…お葬式にも次の日から通常通り行われていく授業にも顔を出さなくなりました。
プリントやノートをお届けに行っても、
時折中から苛立ったようにしっぽの跳ねる音や暴れてるみたいな音が聞こえます。
『次は 地区C-3310霊園、地区C-3310霊園です
お降りの方は お近くのボタンで お知らせください』
合成音声が運転手のいないバスの代わりにアナウンスをしてくださって、
学校より一つ手前のバス停でぴんぽんを押す。
バスのステップを降りれば、そこには咲き乱れるたくさんお花と綺麗に切り揃えられた木々が
太陽をさんさんと浴び、庭園としてお出迎えをしてくれる。
そして、ぱふぃ先輩アム先輩、そして海先輩がみっつ十字を揃えてそこにいた。
これはかつてのアジア圏でのやり方だそうで、
十字に切り出されたお墓の前でするのはお門違いなのかもしれませんが、
そっと両手のしわを合わせて先輩方のことを考えるといいらしいのです。
…海先輩は、ここで眠られているわけじゃないけれど。
ええと、死ぬとはどのような感じだったのでしたっけ?
一度経験しているはずですけど、それでも今より幼かった頃のことですから記憶はぼんやりしていて。
今日ベルちゃんにも聞いてみるべきですかね。
🍗「あらとわりちゃん。お早いのですね、早起きは三文の徳と言いますから」
そっと後ろから声をかけられて、そこにはティティ先輩が立っていた。
手には花束が抱かれている、先輩はそれを優しく海先輩のお墓へ添えた。
🍥「あ…おはようございます。
私そーゆーの持ってこなかったです、そっかお花持ってきたらいいのかあー…
今度からは忘れないようにしなきゃ、ですね」
🍗「こういうのは気持ちですから。彼女たちのことを思う心があればきっと大丈夫なのだと思います。
…でも、この前遅刻しそうになっていたでしょう?ここにいすぎて学生の本分を疎かにしたら…め!ですよ」
そう言って微笑む先輩とおててをつないで、来た道を戻る。
おっきいおててに触れた途端先輩の雰囲気がちょびっと穏やかになったような気がした。
私はかしこいからわかります!気を張って情けないところ見せないようにーって頑張ってるんですよね、きっと。情けなさじゃなくって優しさの一つだと思うんですけれど、
私は一年生ですから、先輩の前ではすこし甘えて見せた。
遅刻したのは私のミスとゆーか、私が悪いんですが…
だってお葬式でここに来てから なにかここに 何かを感じるんです。
何って?いいえ、わかんないんですけど!
なんとなく後ろを振り返って、何かに呼ばれたような気がして、
でもやっぱりここにはいっぱいのお花と私たち2人のモンスターしかいないのでした。
▷ビタ
どんどん空気が重苦しくなってく教室はなんだか窮屈で、
しかたなーいことだとは思うんだけどなんとなく午前の授業をサボって屋根上でのんびり身を伸ばす。
天日干し!
そしたらおっきいあくびが出た!
喉が渇いたから自販機まで飛んでこうかなーとか午後は戦闘訓練だからー
それまでに着替えておこうかなーとか考えてたら、
ジリリリリリ!
盛大に鳴った特大アラームにびっくりしてずっこけかけた。
爆弾かなんかでも落ちたの?みたいなヤバめのやつだ。
普通科や看護科のクラスとか、学校全体からどよめきとか戸惑いの声が聞こえてくる。
するとキーンって放送室のマイクが起動して、切迫した様子の学園長が話し始める。
🧬『緊急連絡。モンスター科生徒は至急体育館へ。
他学科の生徒は指示に従い速やかに授業を中断、救護活動へ向かえ。
繰り返す、モンスター科生徒は__』
わあー…。何やらトラブル?
この前もこういうのあったな。
何にせよ、そろそろオレもぐろっきーずをぼこぼこにできるチャンスかもしれない!
コイツらを忘れず引き連れて、楽しみに翼をはためかせた。
…この前は大惨事だった体育館に、今現在在籍している11モンスターが集まっている。
読みはイレブンね。逆でもいいかも。
ともかくオレが合流したのは一番最後だった。
🌈「あ!ビタなのら!よかったのらーこれでみんなあつまったのらね」
🦇「えー嘘オレビリッけつ!?お待たせしましたー。何事なの?超びっくりしたよ」
🪞「学園長先生、まだお見えじゃないよ。
…せんぱい、みんな来てねってお呼び出しなんだから帰ろうとしたらよくない…です、」
🐉「チッ…どーせつまんねーどうでもいい話だろ、俺様気分じゃねーから。パス!パスパス!パスの二乗」
そこには数日顔を見なかったアニキもとい竜宮城さんちの恋くんが、不機嫌そうに参加していてびっくり。
というのも凍メルちゃんが怪力で引っ張り出してきたみたい、
それなら確かにあの子にしかできないね。サボるなら俺も一緒に付き合ったのに!
☎️「すぐ来ると思うんだけど、
前みたいにみんなで探さなきゃいけなくなったらどうしようねえ?
また探検ごっこできるかも!」
🦇「えーこの前もう見たじゃん!つまんないかもよ。
それよりなんか楽しいことして待とうよ!UNOとか」
🧬「それには及ばない。
全員揃っているな?結構だ」
威圧感たっぷりに登場した学園長、いっつもあの人って遅れてくるよね、
なにやら手元に資料をいくつか持ってやっとご説明に入った。
🧬「単刀直入に、戦況が悪化している。
軍が戦線を押し上げ本丸の人員が手薄になったところで、コロニー内を同時多発的に襲撃された様だ。
駐在のアーミーが既に対応にあたっているが、如何せん数が足りん。
詳しい被害状況は追って連絡するが、本勢力を引き戻すまで諸君らにも後方支援任務を下す」
🧬「今まで行ってきた派遣要請と要領は同じく数名のチームに分けて詳細を説明する、…くれぐれも気を引き締めてかかれ。死んでくれるなよ」
ムズカシそーな漢字ばっかりを並べ立てられて、学園長の説明が右から左に抜けていく。
それでもチームの点呼には応じて、メイとリリィちゃん、サナナちゃんにオリバーが選ばれた!
🦇「よろしくーっ!なんかどきどきする。
で、俺たちなにすんの?」
学園長が次のチームに説明に行った5秒後にそう聞いたもんだから、オリバーがでっかいため息をついた。
⛓️「騒がしい…概要を説明されてすぐこれだ。
リリィと共になれた絶対的運命を噛み締めているんだが」
🫖「じゃあわたくしはメイくんと一緒になれた運命を噛み締めますから、
お静かに願えますかしら。ねえメイくん!♡」
🚬「まあ…でもそうだね。危険なとこにリリィがいくなら俺もついてくし、
運命なら誰に感謝しよう。リリィかな」
メイが気持ちニコってした横からサナナちゃんがひょこりと顔を出して、
🐱「まーまー…
プリントにも書いてあるみたいだよ、
えーっと…いちおもっかい確認しとこーか」
なんて気まずそうに声をかけてくれた。
あー、修羅場ってやつに巻き込まれそうだからかな?
確かにオリバー毎晩リリィちゃんがどうとかこうとか言ってくるもんなあ、
テキトーに相槌うってるけど大変そ!
なんか燃えてるお三方を無視して仕方なくプリントに目を通していく。
人類居住区の近く、ぐろっきーず襲来以前の中でも貴重な文化が保存された美術館。
既にモンスターアーミーによりぐろっきーずは殲滅済みだが、今回は重要美術品の保護と学園への輸送が目的。
崩壊した美術館から3点の美術品を発見し学園まで持ち帰ること…。
麗しい乙女のペンダント、
暖かな食卓が描かれた油絵、
骨を模した無骨な鍵。
それらの写真が添付されていて、これを印刷していて遅れたのねなんて想像をした。
非常時に美術品を守ろうとするなんて、
結構非常じゃないんじゃない?あんまアートとかオレわかんないし。
🦇「えっとじゃあー…これのおつかいに、今すぐココ行けばいいってことでしょ、よっしゃー行こ!」
🐱「わっ待って!普段乗るのと反対口からバス乗るっぽい!
ビタくんそっちじゃないよー!ど、どうしよリリ、もうあんな飛んでっちゃった」
🫖「ハァ…なんなのアレ。ほんとに騒がしいのね。
出発前にお茶でも飲ませたら落ち着かないかしら、勿論わたくしは淹れないけど」
結局はオリバーがノールックでこっち!っていう正解のバスに突っ込んでくれて、
乗客5モンスターとオレのコイツらを乗せたバスが出発した。
るんるん、なんか校外学習みたいでたのしーね!なんて口にすれば、
それまでリリィちゃんと見つめ合ってるだけで静かだったメイが口を開いた。
🚬「どうかな…アムちゃんのこともあったし。彼女、偵察に行ったまま出て来なかったんだよ。
正直安全が確保されてるなんて信じていーのかって感じ…。
不穏な予感するよ。学園長も言ってたけど警戒はしておくべきでしょ」
ふぅん。そういうものか。
でもねー、確かに戦闘訓練ではずっと臆病ってか慎重派?
で、何より壁も攻撃も何もかも自由にすり抜けられるアムちゃんだけがああなった。
なんか不思議だよね、不意打ちだったのかな?見てないから知らねーけど。
揺られ揺られて小一時間、ちょっと酔ったくらいで降ろされたのは小綺麗なプリント通りの美術館。
紙を掲げて横に並べても見事なまでにおんなじそっくり、ここで間違いない様だ。
🦇「ここが噂の?ふーん。襲撃って聞いたからもっと半壊してるもんかと!全然無事そうだね」
⛓️「…道中、周辺の住居施設は所々戦闘の跡が見えたな。
戦火を免れたのか。リリ…皆が何事もなく任務が済めば手早いのだが」
🦇「よくわかんねーけどそだね。
じゃ、張り切っていこー!戦闘がんばるよー!おー!!」

🐱「えっ…!?戦いにならないといいねみたいな方向の話だと思ってたんだけど!
ウチ聞き違えた…?えっと、おー…」
サナナちゃん以外はえいえいおーに反応してくれなかったけど勢いよくロビーにお邪魔して、
なんとなくぐるーってあたりを見回す。…全体的に埃っぽい!外面だけか。
あんま人来なかったんだろうなあ。
入口のすぐ横には白い大型犬の彫刻が飾られていた。
ベロだしててすごい笑顔!楽しそう。
材質は木っぽいけどふさふさ感がめちゃくちゃ伝わってきてめっちゃいいなーと思えば、
壁に向けた後ろ半分の背中側と舌は何故かサイケデリックに塗られたみたい。
虹色のかき氷でも食べたのかな!
なんか気に入っちゃって犬の周りをふわふわ飛んでみる。これも探索でしょ?
一方メイは横でカウンターを気にしてるみたいだけど、汚れ具合を見て顔を顰めた。
🚬「これじゃリリィには触らせられないな…
ねぇリリィ、2人であっちの通路を調べよう。足元暗くて危ないよ。俺の手握ってて」
⛓️「第一に。ぐろっきーず…ヤツらの殲滅は完了しているとはいえ特に軽率な行動は控えるべきだ、
どこかのキョンシーな一年生じゃあるまいし」
🫖「ハァ?まさかとわりのこと?あの子はあなたよりよっぽど利口なかわいい良い子よ。ね?」
ギロリとこわーいお言葉をもらって、オリバーは一瞬表情とゆーか雰囲気が緩んだけど、
仕切り直す様に咳払いをして言葉を続けた。
⛓️「メイ・パールドール。お前は美術鑑賞でもしに来たのか?
軽率な行動は慎めと言っているのだ。
万が一リリィ…フン…仲間が傷付いたとしてお前に責任は取れるのか?
リリィ…お前には分かっているだろう。
取り逃した残党も潜んでいる可能性がある。慎重に進むべきだ」
めっちゃねっとりに名前を呼べば、すっごい目かっぴらいて熱烈にアピールしてる。
ちょっと笑けるね。
私ならお前が躓く前にお前に立ち塞がる石など片付けてやる事が出来るし
お前が寂しくないように私が付いてやる事が出来るのは私だし
喉が渇いた時誰がお前に一番に水を与える事が出来る?
メイ・パールドールと行くわけないだろうな…っていう顔だ。
重ねてになるがオレは詳しいんだ。
🚬「アハハハ美術鑑賞デートいいね。今日は邪魔者がいるみたいだけど
今度は2人でゆっくり美術館なんて行って俺らは二人の時間を過ごそうと思うよ。」
🫖「ふふ、素敵。
…でも今は今のやるべきことを。また今度ね。♪
まずはカウンターを調べるべきだと思いますわ。
当該の美術品がどちらにあるか、案内パンフレットがあればある程度館内の様子がわかりますもの。」
でも流石ストーカーには手慣れてるのか、ピシャリとアピールを切り捨てて話を進める。
🫖「でも埃っぽいのはイヤですわ。
どなたかわたくしの代わりにカウンターをみてちょうだいな、
こちらは”2人で”通路を先に見てきますわ」
🚬「リリィの言う通りカウンターに何かありそうだね。
…ビタ先輩カウンターを探索してきてもらっていいですか?
次出る学食のお肉俺の好きなだけ持っていって下さい。」
宣言通り2人で手を繋いで先に進んじゃって、
オリバーは羨ましそうにオペラグラスで観察を始めた。
⛓️「私ですら…リリィと手を繋いだことも無いのに…。」
ってサイケデリック犬彫刻の前でヘラってるみたいだけど、
ずーっと前から持ってる多分リリィちゃんのハンカチをスーハーして精神統一してるっぽい。ヤバ!
え!てか待ってお肉!やった〜明日の学食ローストビーフだよ!?太っ腹!
🦇「お肉!まじで!!!!よっしゃ〜!行ってくる!!」
🐱「なんでそんなに元気なの…みんな…」
サナナちゃんは不安そうに犬の横に座り込んだままもうぐったりしていて、
車酔いでもしてるのかも。ぴゅーんと降り立って見てみれば、
電話や事務用品が乱雑に転がっていた。
カウンターには様々なパンフレットが置かれてたんだろうけど、
大半はビリビリに破かれてるし、マップ冊子は見当たらず
カウンター後ろの壁におしゃれに描かれているのみだ。
流石にこれだけではどこに何があるかなんてわからない。
🦇「う〜ん、散らかってるし、役に立ちそうなの何もない!
…サナナちゃん大丈夫?」
⛓️「ネヲル、具合が悪いのか?水分補給はとっておいた方がいい。
…ビタ…お前は頭にホコリが…。…しょうがないな」
オレに引っ付いてきちゃったもこもこを遠ざける様に払い除けてくれて、
やっぱ持ちつ持たれつなんだよなーなんて!
🐱「大丈夫か大丈夫じゃないかって言われたら大丈夫じゃないけど…
足引っ張れないし着いてくよ。でもなんでそんなに前向きなの…?
ウチ普通にビビリだし、お荷物ならないようにで必死だよ」
🦇「ん〜…それでいえば、オレは普通に楽しいからかも。
まだぐろっきーず出てきてないし、サナナちゃんにはヴルコがいてオレにはコイツらがいるじゃん。
なんとかなるよーきっと!」
🦇「それに簡単なマップならわかったよ!
さっき2人が進んでったの正規じゃなくて逆走ルートっぽい。
でも普通に行ってもつまんないしあっちから行こ!」
⛓️「お前は天邪鬼だな。まぁどちらも変わりないだろう。」
手元のハンカチを大事そうにしまって、やっぱり出してもっかい吸って、それでしまう。
オリバーは話を続けた。
⛓️「…今すぐにでも彼方に合流すべきだろうが、2・3点話をしておきたい。
私は些か疑問に思っている。私は誰の死にも直面していない。
が、…思うのだ。愛沢は油断していなければ雑魚の相手では無かった。
エンヴィー…アムの事も牛森の事も曖昧だ。どの同胞の死も、肝心の死因については黙秘だ。
安全だと送り出した同胞が無惨な姿で戻ってくるのはこれ以上看過できる事では無い。
リ…お前達も私たちの身を守る為にも。
そう思いお前たちにこの話をしている…
出来る事なら情報を少しでも集めるべきだと思ったのだ」
🦇「う〜ん…」
そりゃ気になるよね。
ぱふぃちゃんもアムちゃんも、モンスターとしての能力的に前線に出て戦うタイプじゃない。
ちょーほーとかさくてき〜とかで後ろにいることの多い2人だった。
海ちゃんは、棺が空だったしなんにもわかんないけど。
🦇「確かに、ぱふぃちゃん達がそう簡単に
ぐろっきーずなんかにやられるなんておかしいかも…」
🦇「オレだって、みんながいなくなるのはヤダよ…でも、
オレ馬鹿だからどうすればいいかわかんないし…
情報を集めるって、具体的に何すればいいの?」
🐱「…あの時のせんぱい、学園長と連絡が取れなくてずっと携帯気にしてて…不安そうだった…。
学園長、あの時何してたんだろ…
それに、ぐろっきーずが襲ってきたのもほんとに急で…サナもワケわかんないまま……」
⛓️「愛沢の件はお前が特に深く傷付いただろう。
お前とは話す機会こそほとんどなかったが2人でいるところをよく見かけていた。
学園内に入ってくるのも初めての事、トリガーは突然変異か、
それとも何かの拍子で決壊したのか分からないが私達や敵が
大きな形で今現在まで変化していってるのではないだろうか。
戦う上で原因が分かることに越したことはない。
私は他の者にも話を聞くつもりだ。
今回の出動も1人欠けることなく成功するのが私の願いでもあり、
お前たちもそうだと確認できて良かった。」
メイが不安な予感がするって嫌そうにしていた理由が、少しだけ想像できた。
変化?ゾンビみたいなあいつらが、そんなことするんだろうか。
それでも確かに人間サイドには起きたことだ。オレたちはその確たる証拠なのだから。
好奇心とか、ぐろっきーずと戦ってみたい!って気持ちはある。戦闘訓練は楽しくてちゃんと出てたし。
でももっともっとみんなの空気が重くなって、教室が広く感じるのはいやだなって思う。
サナナちゃんは話を聞いて何か考え込んでいる様で、
そっとしといてあげるべきなのか?とか考えたけど元気のない彼女をみてリリィちゃんが戻ってきた。
🫖「メイくん?少し待て、しておいてちょうだいな」
🫖「サナナ、元気がないならわたくしの蜜を使ったキャンディをあげるわ。
それを食べて一緒に行きましょう?」
花散里さん家名物のあまーい優しい味のキャンディ。
ヴルコで優しくそれを受け取って、サナナちゃんは微笑んだ。
🐱「うぅ…みんなごめん、ありがと…
美術品、早く見つけて帰ろ。みんなで」
べち!っと頬をはたいて、彼女にも気合いが入ったようで。
🫖「よかったですわ!ふふ、今日はキャンディしか持ってないけど
お部屋にはいろんなおかしがあるの。早く帰ってみんなでお茶会を開きましょうね」
安心した様にメイのところへ手を繋ぎに戻ったリリィちゃんを、
オリバーが信じられない様な形相で見つめている。コワ。
⛓️「(リリィ…食べさせるのか?私以外に)」
ワ!オレってテレパシー使えるモンスターだったのかな、
めちゃくちゃはっきり何考えてるか伝わってきちゃった。
▷花散里リリィ
🫖「それではどなたか先に進んでくださる?」
⛓️「仕方ない…。私が先にゆこう。」
エスコートのつもりか蟲はそっとわたくしの触手に手を伸ばして進もうとしていて、メイくんが止めに入る。
🚬「アハハ優しいリリィで俺惚れなおしちゃうな。
だからそういう事されちゃうとちょっと困りますよオリバー先輩。」
オリバーを止めるために手を離されたのが不服で代わりにわたくしが腕にひっついてみるけど、
アレは心底嫌そうにメイくんの制止を振り払った。
⛓️「…………」
⛓️「穢れが移る。触るな」
触られた部分にはばしゃばしゃと消毒液をふりかけていて、
やれやれとでも言う様にわたくしの手をとりなおした。
🚬「ごめんね勝手に手放しちゃって。
あっ先行ってくれるんですよね。オリバー先輩お先どうぞ」
2人が攻防している時間も不服。不服、不服ですわ。
後ろに2人後輩がついているのだし、本当に何をしているの。
とっとと進みますわよ?
明るいエントランスの明かりを頼りに目を凝らす。
そこにはふくふくとした幼い天使達の絵が飾られていた。
床に額縁ごと落ちてガラスが割れていたり、傾いていたりして管理が行き届いていませんわ。
それに優しく愛らしく可愛く描かれているにも関わらずどこか不気味さまで感じてしまうけど…
別に怖くなんかありませんもの。見事ね、なんて思うだけ。
🫖「ごきげんよう」
🚬「…綺麗で可愛い絵だね」
天使達にご挨拶して、繋いだメイくんのおててが少し強くなる。
わかっていますわ、白の天使は嫌いですものね。
わたくしを見ていればいいのに。
さて、少し暗がりの通路を抜ければ、
そこに鎮座していたのはクライマックスの展示であろう巨大な油絵だった。
…例の絵画ではない様だけど、このサイズを持ち出せなどと言うのなら
わたくし達じゃなくって重機やクレーンやメルちゃんに声をかけたほうがいいわね。
そこ描かれているのは恐らくぐろっきーずより前に起きた戦争の様子で、
凄惨で血腥さまで感じ取れるような迫力と、
何が敵で何と戦っているのかもわからない混戦状態は、
今現在手を焼いている人類の敵が存在する以前の世界だって
負けず劣らず酷い有様だったことを何よりも雄弁に物語っていた。
ああ、こういう絵は本当に趣味じゃない。わたくしのお屋敷には絶対に選ばないわね。
…それにこの部屋に目当ての作品は無いみたい。
🫖「結末がわかっているのに進むだなんて酷ですわ。はぁ……ねぇ早く帰りましょうよ。」
🦇「ブッソーな絵!しかもこここれしかおいてないね。とっとと行こー」
⛓️「人間は醜いな。いつの時代も。
ビタ?個人での行動は控えるべきだ、いくら殲滅されたとはいえ油断するべきでは無い」
先頭のオリバーにいいからさっさと進みなさいよ、
とアイコンタクトをしてみる。
伝わったのか知らないけどなんだか口角がぴこぴこ上がって気味悪いですわ。
更に進むと、今度は美術品や彫刻など中心に飾られたお部屋だった。
中央で煌々とスポットライトを浴び輝いているのは、回収対象の「麗しい乙女のペンダント」!
吸い込まれそうな深い青は、空よりも海よりも美しいのは自分だと叫ぶように輝いていた。
🫖「悪くないですわ!
わたくしが頂いても申し分ない出来ね。
どなたかとってきてくださる?」
🐱「キレイだけど、勝手に着けたら呪われそうじゃない?
…ガラスケースならウチが壊せるかも、みんなちょっと離れてて…」
🫖「それでこそぴか高生よ。頑張ってサナナ!
お申し付け通り下りましょメイくん」
🚬「わん。いいよリリィ、ついてくよ」
ヴルコの拳がぱりん!とガラスに届いて、
破片がスポットライトに乱反射しまるでミラーボールの様…
ダンスなら上品なワルツなんかのほうが好きなのだけど?
プロムでメイくんと踊るの、一番綺麗なドレスを仕立てね。
瞬間、耳を劈く警報が美術館に轟く。
なんでこんなに不潔で半壊しているのに、
警備システムが生きているのよ!
🫖「うる…さい…!!誰でもいいから早くこれを止めて!!!
う、耳がおかしくなりますわ、早くしなさいよ!!!!」
🐱「ごっ…ごめんリリ!待ってて、多分スピーカーとかそゆの壊したらいいはず…」
ヴルコとサナナが一緒に壁のスピーカーを壊して、
この部屋の音響だか設備だかは停止したらしいけど、
他の部屋から反響するアラームが不協和音を生み出していて気持ちが悪い。
音だけでこんなにぐにゃぐにゃしてくるもの?
🚬「リリィ、もう止まったよ…俺はここ、側にいるよ、大丈夫。立てる?」
⛓️「リリィの気分が悪いと言うのに近寄るな、
メイ・パールドール!ストレスになって症状を悪化させたらどう責任を取るのだ」
🫖「お前こそ喧しくって敵わないわ、少し立ち眩んだだけよ…」
🦇「びっくりしたね〜…!翼がひっくり返るかと思っちゃった。
今日そういう日なのかな?…あれ、なになに?
みんなまって!”コイツら”がなんか言ってる!」
ビタの影から飛び出るその不思議生命体達が必死に何かを伝えようとしているけど、
そもそも彼の使役しているアレとわたくし達は会話できないし、
言語を話すのか知らないけど唯一意思疎通が可能な彼も反響する警報で聞き取りに苦戦しているみたいで。
🦇「なに?えーっと、ごめん聞こえ辛い…」
🦇「上?」
そう呟いていた気がした。
みんなが一斉に上を警戒する。
でももうわからない。
天井からのスポットライトのすぐそこ、何かが蠢いている。
咄嗟に蔦で防御体制を取る。細かに動いている。痙攣している。
血走った目がふたつぎょろぎょろと光っていた。
まるで猿やヤモリの様に張り付いて、指を壁に食い込ませて、
確かに人間の形をしているのに、野生の動物の様に品なく頭をぶるぶると震わせて、
あれはぐろっきーず?
でも知らない。あんなものは習っていない。
軍と連携し最高峰の教育が受けられるぴか高で確認できていない情報ということは…
発砲音が響いた。オリバーが撃ち落としたのだ。
ぼとりと目の前に落ちてきた肉はひどい悪臭がした。
顔を顰める、ライトの元に引きづり出されたそれは、
いろいろな生き物の特徴を掛け合わせた様な、キメラというべき醜悪な見た目。
🐱「ヒ…!前のよりもっとキモ…!!
これって報告すべきなの?待ってその前にビタくん他に敵いそう…?!
もうーーー無理キモい帰らせておねがい、お願いします!!お願、オエ…ッ」
サナナが涙目で訴えて、悪臭とショックに耐えかねたのか背中を向け小さくうずくまる。
蟲が撃ち抜いた死体がしっかり死体であるか確かめる様に
その猿の顔・皮膚で組み換えパズルを作っている間に、メイくんがわたくしの手を取った。
⛓️「まず安全そうなところまで退避しようよ。
狼狽てる隙に殺されるなんて理想とは程遠いかな」
🫖「え、ええ…もうこんなところ嫌!一つは手に入れたんだからあちらも満足でしょう!?!
わたくし達の命より絵の具の塊がお望みなわけ!?汚くって気味が悪い」
🦇「えーっと…でも見てリリィちゃん。
ちょっと…これは…やばいかも」
ビタが機嫌を伺う様に順路先を指差す。
となりの部屋からは酷い臭いが立ち込めていて、
誰かさんの吐瀉物も混ざっているのでしょうけど、
でも通路先では乱雑に美術品が山の様に集められている。
プリントにあったものもだ。
🫖「ハァ?確認されていない新種のぐろっきーずに襲われかけたのよ!?
目先の宝に目が眩んでいるの?取ってきたいならご自分で行きなさいよ、
サナナだって体調を崩したのよ。わたくしとメイくんは先に戻っていればいいでしょう!」
ガラス破片に飾られたペンダントを掴んで、来た道を引き返そうと方向転換を。
ばさり、黒い羽が視界を覆い尽くした。
黒の中に露呈するピンクとがなるような鳴き声、これは人間か疑う余地もない、
カラスを模したぐろっきーずたちの大群が啄む様にうざったく攻撃してくる。
痛いんだけど、なんとかしなさいよって叫ぶ暇もない数での猛攻に
苛立って蔦をしならせ広範囲制圧を試みる、
遠くで蟲が叫んでいる気がする。
ぐろっきーずの肉と蔦とがぶつかって重量を増して操る手指の先、
手を伸ばした先、メイくん、メイくん助けて、ぱちりと瞳が合う。
メイくんとぶつかった。
いいえ、ぶつかられた?どうして?わたくしに?
ハグでもしたい気分なのかしら、でも今はそんなことしていられないの、
見てわかってよ?
🚬「リリィ」

メイくんの優しい微笑みの代わりに、
視界いっぱいを白が埋め尽くした。
ほんのちょっとだけ黒い、爪みたいなのが端っこにあって邪魔だ。
潰れてしまったのだと、理解するには数秒かかった。
彼の頭半分、ふたつしるしみたいにほくろのついてる右側がない。
それじゃあ、白は、彼の血だ。
わたくしは、彼の返り血を浴びたのだ。
まっくろの袖でまっしろを拭って、爪の先についている大きいクマとサメのキメラみたいなのが
わたくしを見下ろしていて、わたくしより大きいなんて本当に気味が悪くて、
ああ、彼はわたくしをこれから庇ったのだ。
どのくらい?焦点の合わないこいつの眼球を見つめている隙にどのくらいの時間がたったのかしら。
またその大きい爪を振り下ろそうとする動作がスローモーションに見える。
ぎゅっとメイくんを抱き寄せる。蔦が間に合わない。力が入らない。なんだか視界が透明に滲んでいる。
いや、いや、こんなのは絶対に嫌。
🫖「はやくこいつを殺して」
クマの頭が消し飛んだ。真っ白に真っ赤が混ざって美しくない。
オリバーが立っていた。
血と羽で薄汚れながら、彼がクマの頭に触れたのだ。
⛓️「リリィ、怪我は。
身体中ひどいな…美しいその身に、なんて損失…
今すぐ望みのままにしよう。
リリィを守れるのは私だけなのだから」
🦇「まってその前に!他にも来てる!!!
このまま押し返されたらやばいよ!!?」
⛓️「…すまないリリィ、無粋な獣を黙らせなければ」
カラスの目眩しと攻防で、クマや猫やらさっきと同じ様な大型キメラのぐろっきーず達の接近に対応しきれず、
サナナとビタが必死にいなし捌いて各個撃破に動いている。
オリバーは、どうにも近寄り殺そうとする獣たちから必死に守ろうと銃を構えていた。
わたくしは…、わたくしは、
3人が必死に戦っている中、どうメイくんを助けるべきか必死に思考をめぐらせていた。
学校で処置を受けるには間に合わない。
脳が消し飛んでいるなら、もしついたとしてぴか高レベルの治療を受けたところでたかが知れる。
自分勝手だとでも言えばいいじゃない。
わたくしは自分のことが大事よ、自分のしたい事が大切なの。
そして彼はわたくしのものなの。わたくしの所有物。
ねえメイくん、わたくし結局あなたにちゃんと答えられた事なかったわね。
俺のこと好き?って、聞いてきてくれた日のことを、まだ夢に見るもの。
ねえ、今更だけど、
わたくしのことちゃんと見ていて。
聞いていて?
もう一回なんてなしよ。
🫖「大好きよ、…メイくん」
頭全部が吹き飛ぶんじゃなくって本当によかった。
お耳が残っていて本当によかった。
だって最後に、貴方に愛を伝えられる。
貴方に聞いていてもらえる。
固く強く閉した蕾が、朝焼けを浴びたみたいに開いていく。
どれ程そう言いたかったかわかる?
何回貴方宛のラブレターを飲み込んだかわかる?
蕾は花開き、季節を早送りしたみたいに変化する。
花は開けば散って、次の春のため実をつける。
騒音も遠くの戦闘も最早どうでも良かった。
花弁がふわりと宙を舞う。
そっと蔦で舞を助長して、
随分利口だったストーカーに一枚送る。
🫖「先刻の駄賃よ とっておきなさい」
ああでも名残惜しい、腹の立つ畜生もどうにかしてやりたいし、
サナナやメルちゃんのこともハグしておきたかった。
でも残りの時間は、全部目の前の愛しい彼のために。
唇が触れる。
彼がわたくしを、わたくしが彼を確かめる様に。
さっきまでの悪臭はどこへ行ったのやら、
お花の芳しい素敵な香りでいっぱい。
わたくしはプリンセスでメイくんが王子様なのに、これじゃあ逆よ?おかしいわね、ふふ。
回復効果の高い花の蜜。
発現して、愛沢グループの検査を受けて、その効果を確かめたこの体。
…大嫌いなお家と今までの思い出は、わたくしのフィルムからはカットよ。
わたくしの王子様はわたくしで決めるの。
だいすき、だいすき、好きすぎて頭がどうにかなりそう!
大好きな人が大好きな二つの瞼を開けたから、
大好きなほくろを撫でて大好きな肩に思いっきり大好きのハグをした。
🚬「リリィ、俺もだよ。俺も…」
少し掠れた声で世界一大好きな声がして、ぼろぼろと涙が溢れた。
メイくん。メイくんってすごく好きな響き。メイくんの吐く息が好き。
たまにタバコっぽいのも好きだし真っ黒な瞳とかも好きだし、
でも全部伝えるにはもう時間がない。
好きと伝えられるって、なんて素敵で楽しい嬉しいことなのかしら。
🚬「リリィ…大丈夫、俺はここにいるから、まだ死んでないみたい、
アハ、死に損なっちゃった、いてっなんで殴るの」
🫖「違うの、違うの!お願い、あのね、」
🫖「もうわたくしは全部貴方にあげちゃったの、だから、…絶対もうこんな勝手なことしないで、
…それで、わたくしに夢を見せて」
泣きじゃくりながら苦し紛れに彼に縋り付いて、
少し情けないからサナナがこっちをみていないといいなって思って、
メイくんは有無を聞かずふわりと副流煙でいっぱいのキスをしてくれた。
ふわふわの煙いっぱいの、どこから夢でどこから現実かもわからないダンスホールで、
わたくし達二人が手を取って踊っている。
プリンセスがつけるような長いグローブ越しにメイくんの体温が伝わる。
それじゃあきっと、こっちが現実なのね。さっきまでの怖いのは夢。
ねえきっと、最後に思い出すのは傷だらけで泣きじゃくっているわたくしじゃなくって、
可愛い可愛い素敵なわたくしにしてね。命令。
それで、いつまでもメイくんはわたくしのことを思い出す義務があるの。
言いたいことはわかるでしょ?
ありがとう、だいすきよ、それから…
▷キャラクタロストの為、プレイヤーを変更します。
▷オリバー・リーバス
殲滅した死体の山の上、荒い呼吸を整えようと必死になる。
いや、整えてなるものか。ひどく音が聞こえやすい。
鴉はもう一匹残らず殺せてしまえたらしい。
ひどく咽び泣いている声がする。
甲高いからきっとネヲルのものだろう。
こんな声をしているのだななんて初めて認識する、私の世界にはリリィしか必要がなかったからだ
🐱「置いてかないでリリ、おねがい、やだ、おねがい…!!
ああああ…ごめん、ごめんなさい、守れなかったから、サナがもっと、ごめ、ごめんリリ…!!」
脳髄や腑がふつふつと煮え繰り返る様な熱が、吐き気を催すほど競り上がって、
その熱は言葉を示さない嗚咽として出力されていく。リリィは世にも美しく眠っているようだった。
世界一愚かで不敬で軽蔑するような殺されて然るべき様な獣達につけられた傷が、
世界一美しい花を踏みつけ散らしたのだと。
リリィが花のようだから美しいのではなく、花がリリィを想起させて美しいのだ。
リリィの瞳が朝日を溢した空のようだから愛しいのではなく、
朝がリリィの虹彩に習い同じように光っていたから似ているのだった。
ありとあらゆる美しいとされるものの揺るがぬ頂点は彼女で、
そのほか美しいとされるものたちは所詮美しい彼女のことを見上げ敬い真似ているにすぎなかった。
世界の中心はいつだって花散里リリィだった。
瞼からなにかとろりとしたものが零れた。目を凝らしてよく見れば視界は滲み、
そして凝らすために力を入れた眉間、眉間だけではなく体の内、
特に舌の付け根の奥が燃え上がるように揺れていることに気づく。
喉が勝手に打ち震え、何度も彼女の名前を叫んでいたことさえたったいま自覚し、
そして汚い床と土へウジ虫のように這いつくばっている自らを自覚する。
今リリィを抱く薄汚い男が筆舌に尽くし難いほどに憎ましく羨ましかった。

激昂。
リリィは確かにあの瞬間わたしではなくメイ・パールドールのもので、メイ・パールドールはリリィのものだった。
最期にたった、たった1枚白く美しい花弁を貰って、なんだというのか。
リリィに全てを捧げられそして捧げること以外に生の意味などあろうか。
神や仏や悪魔や花散里家の雑草達やリリィ自身に否定されようとも彼女はお前のものではない。
私のものだ。その愛しい花弁も蜜も蔦もまつ毛の一本でさえ細胞に宿る葉緑体の一つでさえ私のものだ。
返してくれ。奪わないでくれ。奪い返さねば。リリィを救わねば。
そうして彼女の美しい鈴のような声に従っていればいつかは報われて、優しい唇が慈愛に満ちた言葉を届けてくれるかもしれない。なんならその唇で額くらいには触れてくれるかもしれない。こちらはリリィのティーポットもリコーダーも全てに舌を這わせる覚悟をとっくのとうに決めている、地面に触れる蔦の裏を洗わせて欲しい。リリィに汚れた場所などなく彼女は完全無欠の唯一神だが、戦闘の土煙がついてしまえば洗浄・掃除は仕方のないこと、即ち合法だ。そもそも将来の婿が足を洗うことはなんの罪にも該当しない。帰ってバージンロードを歩かせてくれ。花散里家の雑草達を差し置いて、美しいチャペルへ1人幸せそうに私の元へ歩いてくるリリィがありありと見える。ヴェールをあげればそっと頬を赤らめる彼女は天の使いかと思うほど、いや天使もリリィの模倣に過ぎないので明確に話せばリリィのほうが美しいのだが、言葉で言い表せないような高揚につられ呼吸がおかしくなるのだ。
⛓️「リリィ…リリィ”、リ”リィ、リリィ!”!」
死体の山から力の抜けた足は無視して腕の力だけで彼女を支えようと寄る、
他より1対多いのだから推進力には十分で、それでも受け取った花びらは決して汚れない様握りしめて、
欲を言えば食用にもう1枚が欲しくって、
暗転。意識が途切れた。
▷キャラクタ気絶の為、プレイヤーを変更します。
▷サナナ・ネヲル
リリが死んでしまって感情のまま号泣していたウチことサナナ・ネヲルは、
空いた口が閉まらないまんまあんぐりと二人を見つめていた。
だってビタがオリバーさんに踵落としを決めたから。
🐱「えっ…は……?何!?なになになに!?涙止まったんだけど、なんで!?あしっ…え!!??」
鼻水やら汗やら涙やらでぐしょぐしょの顔面から、え!?って驚きの声しかもう出ない。
いや手荒とかそういうレベルじゃない。なんで!?
確かにちょっと怖かったけど、リリが!?こうなってるときに!?ええ!!???
🦇「メイ、リリィちゃん抱えたまま戻れる?ていうか絶対やって!流石に二人運ぶのは無理だし。
オリバーはオレが運ぶよ。サナナちゃんは回収品ね」
🐱「えっ…急になんで、ぐろっきーずも、荷物も全部じゃないのに」
🦇「オリバーは…あのまま暴走してたら何し出すかわかんないでしょ。
普段の話聞いてる限りじゃ絶対やばそうだもん!学校に戻ってからでいいじゃん。
…隣の部屋見たら、無骨な鍵?だけ見つけたの。3分の2持って帰れればもう充分お仕事したって!」
ほーら行こう、ってビタがケムのことぽんぽんしたけど、ずっと黙りこくって放心状態。
頭が半分ないのが超グロかった傷をぐろっきーずから逃げつつ戦ってる時見たのに、
今はどこへいったのか綺麗さっぱり消えている。
でも、リリのことだけはすごい力で離さなかった。
🐱「…ケム、帰ろ。ぴか高に。
ウチも超…悲しいし辛いけど…リリはこんなとこじゃなくて、
綺麗で楽しい学校で眠らなきゃ」
びっくりで止まっていた涙がまた滲んできて、
よく見たらケムもじんわり泣いていて、ぽたりとリリに溢れたけれど、
映画やおとぎ話みたいにもう目覚めたりはしなかった。
ふと先輩のことがフラッシュバックする。
彼女はおなかがばっさり半分に切られちゃって、
そして地面に着地したときの衝撃でぐちゃぐちゃだったけど
リリはきっとこのくらいの擦り傷なら綺麗にメイクして出棺されることになるんだろう。
あーあ…また喪服着なきゃいけないんだ。
ビタとウチでしっかり索敵をして、
もうここのぐろっきーずはオリバーさんが殺し尽くしてしまったみたいで、
ウチは自分のことに精一杯だったから数匹しか倒せなかったんだけど…
とぼとぼとした足取りでバスまで戻る。
リリはあの超回復力をケムに向けて死んでしまいましたと
みんなに話さなきゃいけないのがひどく嫌で、嫌で…
🐱「…まってよ。なんで、先輩はいきなり”空中で”、死んだの?」

ウチ見てた。刃物なんてどこにもなかった。
ぐろっきーずに食い荒らされたアムは酷いものだった。普通ぐろっきーずに殺されて死ぬなら、じわじわずたずたになるんだ。
ウチもああやってぼろぼろにされて死ぬんだって、すごく怖くなったもん。
でもぱふぃせんぱいだけは突然、意味わかんなく体がバラけて、高いところから落ちたんだからひしゃげはしても、死んだ瞬間は綺麗と思うまでだった。
なんで?何が先輩を殺したの…?
考えても、ウチの中から答えは多分出ない。
死ぬのが怖い、ひたすらに怖い。
もう置いてかれたくないよ…。
リリが、先輩が、アムの棺が、そして想像のなかでウミが、交互に浮かんでは消え浮かんでは消える。
どうして死ぬの。なんで?なんでそんな機能があるの。
悲しいとか辛いとかじゃなくって、なんていうか、息が苦しかった。
ウチはなぜなぜ期みたい。ぐるぐる思考と文字がかき混ぜられて、考えて使ったラーメンの残り汁みたいなのが涙ってこと?知らなかった。知ってたかも。早くこんな気分終わりたい。目が覚めたら楽しい夏に戻っててほしいもん。
🐱「…ねえケム、今度サボりが一緒になった時とか気が向いたらでいいから、リリのこと話してよ。
そういう…違うこと考えて、違うこと覚えてたい気分なの」
バスはウチら5人を乗せて揺れる。
ちょうどカーブに差し掛かって、
彼がうなづいて返事してくれたのかはわかんなかった。
▷メイ・パールドール
一度、リリィに俺のこと好き?なんて聞いてしまったことがある。
表情が強張ったから、きっとリリィにとってすごくデリケートで、辛い話なんだって、もう触れられなくて…。
安心して欲しかった。
可愛い可愛い我儘の裏でものすごく辛そうな気持ちを感じ取って、今すぐじゃなくてもいいから、リリィが、
俺と気兼ねなく楽しそうに笑ってくれるなんて
夢みたいだと、思ったんだよ
傷だらけで、死にたがりで、笑う時だって軽薄にしかできなくって、どっか壊れてるみたいな、こんな俺を王子様に選んでくれたなんて、
リリィ、愛してる。

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