

Pity kitty high school
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▷File3.
▷牛森海
暗い地下の廊下を、先導する学園長の持つ懐中電灯を頼りに進んでいく。
どこからか衝撃音が響いてぱらぱらと埃が舞うけれど、
その他にはウチらの足音と、サナナちゃんの啜り泣く声しか聞こえない。
🐱「ぐすっ…ぅ、なんでせんぱいが…先輩が、…う、ひぐ、」
ぱふぃちゃんの死。
あんまり急だったから、彼女の回収は試みたものの…結局持ってこれたのは彼女の携帯電話だけだった。
あんな高さから落ちたせいか、液晶はばきばきにひび割れもううんともすんとも言わなくなっていた。
🍖「学園長、…はやく戦闘に復帰しないと、コロニーの一般人へ被害が拡大してしまうのでは。
俺たちはいまどこに向かっているのでしょうか」
🧬「他生徒達もこの先に集めている。まずはそこで現状報告をした後、
すぐ作戦に入ってもらうことになる…二度も説明を受けては手間だろう」
学園長は振り返りもせずそれだけ伝えると足を早めた。
きっと戦況は悪化してるんだ…つい良くない想像ばかりして、俯いてしまう。
置いてけぼりにならないようにってサナちゃんを繋いだ手から、ぎゅっと力が伝わってくる。
…わかるよ、怖いし不安だよね。
ウチもこわいけど、せめて今この手は離さないようにって握り返した。
🍗「! 着いたみたいですよ。
みなさんきっと無事だといいのですが…
サナちゃん、もし気になるようならハンカチーフ、お貸ししますね」
急に開けた空間のさき、慣れてきた視界にうつったのは…
いつもモンスター科の使ういつもの教室と、モンスター科のみんなだった。
普段と違って窓がシェルターのように覆われていることを除けば。
…まるで突然災害でも起きたみたいなんて思ったのはウチだけかな。
🌈「のら!?棚の後ろが隠し扉なの、しらなかったのら〜…
これでみんな揃ったのら?無事でよかったのら〜!!」
☎️「ほんとだね、よかったよかったー!
でもぐろっきーず来ちゃったんでしょ?たいへんたいへん〜…
あっ、学校にくるってことはおべんきょうしたかったのかなー!」
🦇「ん…あれ、まって?全員じゃなくない?
ぱふぃちゃんいないじゃん。ってそれにサナナちゃん…
そういうこと?」
歓迎ムードだった教室がその一言でずんと重くなって、
無邪気なベルちゃんだけがこてんと首をかしげた。
🧬「全員そのまま聞け。
簡潔に現状説明をする、まず当校は敵からの襲撃を受け愛沢・ぱふぃ・らびぃは戦死した。
次に、軍は敗走し我々は大きく後手に回ることになった。
まだ訓練の必要な者もいるが、
今後は軍と連携して戦力を補うためモンスター科も出陣していく運びとなる」
息を呑む音、覚悟を決めたような声、クラスメイトの死に動揺する子。
🍥「そんな…たったさっきぱふぃ先輩からメール受け取ったばっかりなのに、」
👻「は、ハァ…!?愛沢が…
それにまだアムたち学生なのに戦争に出ろってゆーの…!?
そんなに弱かったの軍って?てか急すぎ…」
🧬「…文句を言って奴らが退却してくれるならいいが、
この学校に通うなら卒業後遅かれ早かれ訪れた徴兵だ。
在学中に経験を積めるじゃないか。敗走したとはいえ降伏したわけではないのでな。
かと言いつつも、将来有望な卵をみすみす捨てるほど我々は愚かではない」
🧬「今後軍は奴らに占領された地域の奪還・制圧作戦を実行する。
君たちが赴くのは制圧された後の残党狩りだ。
危険がないとは言い切れないが…最前線よりは危険度も低いだろう」
重く、そして淡々とした知らせに、また教室は静まり返った。
無事に卒業したとして、確かにその時待っているものと同じではあるけれど…
いくらなんでも心の準備ってものができてない。
🧬「…社会科見学や修学旅行ではないのでな。
適任だと判断したメンバーを都度派遣させることになっている。
質問等があれば答えられる範囲で受け付ける…以上。
派遣要請が届くまでは棚後ろの通路から寮へもどること」
さいごにそれだけ告げて、学園長は教室を足早に去っていった。
ぱふぃちゃん…娘さんが亡くなってショックだろうに、やけに事務的で。
仕事人間ってかんじするもんなあ…そのほうが、気がまぎれるのかな。
きっと今はそっとしておいたほうがいい。
学園長に続いて、恋くんや他のみんなも徐々に教室から去っていく。
🐉「ま ぶちのめす相手がサンドバックか本物に変わったってだけだろォ…?
その違いあんま興味ねェってゆ〜か俺様腹減ったし。
ここで通夜してるなら俺様一抜けあーがり!じゃあなーッ ^-^ノシ」
🫖「…いきましょ、メイくん。わたくしから離れないでね」
🚬「わかった…リリィこそ離しちゃダメだよ。通路暗そうだし…ってツタ、ちょっと強いんじゃない」
🫖「ふん。離しちゃダメって言ったばかりじゃない」
⛓️「リリィと共に編成されれば大変喜ばしいが、
無理矢理同行するなとは言われなかったな。
待て、今し方リリィが離れるなと」
🦇「まーまー…とりあえずは大人しく言うこと聞くしかなさそーだぜ。
でも授業とかできそうなテンションじゃあなかったよなあ、しばらく休校かなあ!」
👻「う…愛沢でも死ぬなんてきっとアムはすぐに
きもいぐろっきーずにぐちゃぐちゃにされて死ぬんだろうな……」
🪞「アムちゃん…わたし、きっと助けに行ってあげるから平気だよ。
お茶でも淹れようか?落ち着くよ」
☎️「らびぃのこと殺したぐろっきーずとはおともだちにはなれ…ううん、わかんないや…
でももう らびぃとぎゅーってできないのは、かなしいなあ…」
🌈「もう教室のこの席にぱふぃが来ないのら…?
んむ、かなしいのに、なんだか想像できないのら
ほんとにぱふぃは 死んじゃったのら?」
気づけば、教室に残っていたのはウチと、
てぃてぃくんと、サナナちゃんに、とわりちゃんだけだった。
それも涙し続けるサナナちゃんに寄り添うようにして。
🍥「サナさん…大丈夫、じゃないですよね。
微力ながらもですが 私はいるので…
落ち着くまで、いますから」
背中をさすりながら とわりちゃんがそう声をかけると、
サナナちゃんはいっそうぽろぽろと涙を溢れさせた。
🐱「ごめ、ごめん…とわにも、2人のまえでもいっぱいこんなとこ見せて…で
も、でもっ 止まんないの涙…!」
🍗「…突然目の前であんなことになっちゃって、びっくりしましたよね。
俺たちのことは気にしないで大丈夫です、今はいっぱい泣きましょう」
…生き物は遅かれ早かれ死ぬって言うけどさ、
こんなふうにいきなり会えなくなっちゃうのは やっぱり、寂しいな。ぱふぃちゃん。
でもそれと同じくらいウチとか、
モンスター科の誰かがまたそうなるかもしれないのが、もっと怖い。
▷メイ・パールドール
襲撃から数日。
破壊されていたはずの体育館をはじめとした学校設備もすっかり元通りになっていた。
一人分空いた空席は初めからそうだったかのように。
アハハ、俺が死んだ時もこうやって進んでくのかなあとか考えちゃうよね。
🧬「お早う諸君。早速だが、先日説明した派遣要請が届いた。
アム・エンヴィー、沈香堂凍メル、メイ・パールドール、甘雨じぇりぃ、Ring-Bell。
以上五名は明日明朝に準備をして寮の前に集合すること。
では授業を始める」
朝のHRのついでに学園長からそう伝えられ、
返事をする間もないまま教科書のページを告げられてもなあ。
はい回想おわり。
リリィがさっきまで見送りに来てくれたところも回想しておこうか?
朝早くからなんてだるいんだからいいのにな。
って、まさかね。そんなの俺だけ知ってたらいいから見せてやらないよ。
…まだ霧も深いうちに、スクールバスのヘッドライトがぼんやりと見えてくる。
寮の前にいつも通り停車したものの、
運転席に座っていたのは学園長…を映したモニター、だった。
こっちはいつも通りではないらしい。
🧬「全員揃っているな。あちらに到着次第説明する」
学園長って、いっつも簡潔すぎるし大人ってだけでちょっと…だし。
かといって断る権利もなさそうだから、しぶしぶ乗り込む。
☎️「せんせー、おはよーございます!
このまえはびっくりして落ち込んじゃったけど…今日はせいいっぱいがんばりまーす!」
🌈「べる、朝から元気なのら…!じぇりぃも負けてらんないのら。おはようございます!のら!ぐろっきーずはいややらけど…じぇりぃも頑張っちゃうのらッ!」
そう意気込む2人を尻目に、こちらはなーんとなく暗い雰囲気だ。
👻「はあ、2人とも朝から声でっか…元気だよね…アムはこんなにも憂鬱で不安だってのに。その元気ちょっと分けてほしいくらい」
🪞「元気があるのはいいことだよねえ。それに今まではみんなでコロニーの外へ行くなんてなかったじゃない?
だからわたしもがんばろーって思うんだよお」
まあ主にアムちゃんの効果かもだけど。
元気な2人は前の方の座席に、ローテンションな2人は後ろの席に。なんとなくどっちかに偏る気分じゃなくて、俺は真ん中くらいの座席を選んだ。
。゚゚・。・゚゚。
゚。 移動中
゚・。・

🧬「では概要を説明する。
今回探索するのはこの映画館だ。
このロケーションには5体のぐろっきーずが確認されており、
5体分の討伐を達成するか3時間以上経過後確認できなかった場合は
状況報告の為バスへ戻ること。以上」
下ろされたのは廃れた映画館。
近くには広がる荒野に高速道路が通っているだけ。
それにCinemaと書かれていたのであろうネオン看板は、
maの部分が地面に落ちてCineになっている。ローマ字なら随分上等な看板なことで。
そして探索時間は3時間。
ふうん、なら中で映画一本くらいなら見れるってワケだね。
重い扉を押し開けると、そこは荒れ果て廃墟と化したロビーが待ち構えていた。
電気が中途半端に通っているせいで着いたり消えたりして見にくいし、成程それなりに薄暗い。
🚬「アハハ〜なにこの冴えない映画館」
👻「き、急にこんな事になっちゃうなんて…うう゛…
怖いんだけど、ほんとにやらなきゃダメなの……」
🪞「こんな状況じゃなければポップコーン片手にお楽しみとしゃれこんだのにねえ」
元々青白い顔をさらに青ざめさせながら他のメンバーも入場した。
そりゃあ、外では学園長がリモートで俺達の報告を待っている。
何がなんでもやらなきゃダメなんだろう。
それにしても俺達以外には特に気配も感じられず、
防音設備は意外としっかりしているのか、そうだと索敵には困るなあ…
しぶしぶぐろっきーずとの隠れんぼなんて、リリィが聞いたらなんて言うだろうか。
まず目についたのは一番近場にあったグッズエリアだ。
もしかしたらリリィが好きそうな作品のアイテムとかあるかもしれないなぁ、
リリィはどんな映画が好きなのか、どんな曲が好きなのか、
リリィを構成する全部が知りたいし全部一緒に楽しめたらって
思いつくこと全部リリィに連想してしまう。
今頃1人で大丈夫かなあ、先輩にまた変なことされてないといいけど、そういえば…
🪞「そっち、見てみる?なにがあるかなあ」
…メルちゃんの声で我に返って、はやく彼女の元に戻りたくて仕方ないけれど探索を始める。
小さなワゴンにはボロボロのパンフレットやキーホルダーなどのグッズが詰め込まれていた。
値札を確認すると「猛烈!ドールハウス移植サメVSテレビリモコンカジキ頂上決戦!」「足の裏の溌剌羊頭狗肉」「猫億万長者」という3つの映画のグッズが販売されていたことが分かる。
よく見てみれば壁に飾られているポスターは該当する映画のものだから…
これの上映期間中にこの映画館は廃れてしまった〜、ってカンジ?
🪞「照明は……生きてなさそうか。おまえたち、足元気を付けてねえ」

🌈「わ〜オンボロなのら〜…薄暗くてブキミなのら……
う?ワゴンに沢山なんかある!
…けろ、B級っぽいやつばっかりなのら、らから廃れちゃったのらね
じぇりぃは賢いからちゃんと理解できちゃったのら」
じぇりぃちゃんは凍メルちゃんの影からひょっこりと顔を出せば、
恐る恐るグッズブースの物色しに来た。
確かに少しモノトーンで落ち着いた空気のここは、
極彩色の彼女と少し住む世界が違うかもしれない。
☎️「わー!確かにボロボロだねぇ!でもたのしそう!ねえみて!すっごいサメがいるよー!」
ベルちゃんとじぇりぃちゃんはグッズをがさがさ漁りつつ、
気に入ったらしいものを見せびらかしている。
🪞「ふふ、チョイスした人の好みがよくわかるなあ。いいねえ、それもかわいいねえ」
その様子を眺めてはにこにこしているメルちゃんの横から、
今度はアムちゃんが顔を覗かせた。
👻「メル…ここ薄暗くて怖いんだけど…てかあの子達なんでこんなに呑気なワケ…!?」
🪞「こわい? そっかあ。懐中電灯くらい持ってくればよかったねえ。
おまえも足元はさておき 備品なんかにぶつからないようにねえ」
確かに足元は割れたガラスの破片やら土埃やらでごちゃごちゃと汚れている。
まあアムちゃんには関係なさそう。
🚬「趣味悪い映画ばっかだね、
俺だったら人がいっぱい死んじゃう映画作るかな〜アハハハハハ」
な〜んか皆ついてきちゃったな…
小腹すいたし次はフードカウンターに行ってみよ〜。
まぁこんな映画館に食べれるものなんて何も無いだろうけど。
👻「パールドールの趣味もた、大概じゃない……
ていうか一人で行動するとか…そ、そんなに死にたいの...?」
小声でそんな事を言いながらついてくるゴーストを横目に、入口すぐのフードカウンターへ。
上に設置された看板には、大きくポップコーンやホットドッグ、
ナチョスなど定番の映画フードが描かれていた。
真ん中には大きなドリンクバーが置いてあり、
壊れているのか とぽんとぽんと不規則にオレンジジュースが滴っていた。
照明は点いたり消えたりの瞬きを繰り返しており、辺りには焦げ臭い匂いが漂っている。
焼死…だと綺麗に体が残んないよなあ…。それじゃあ美しい死に方とは程遠い。
🌈「わ!メイにアム!待ってなのら〜!じぇりぃも行くのら!
…む?食べ物屋さんなのら?
ココもなんだか暗〜いカンジなのら!…クンクン。
なんか誰か燃やしたのら?それとも誰か燃えてるのら!?
なんか焦げた匂いがするのら、クンクン」
☎️「んっ!?ほんとだー!なにかヘンなにおいがするよー?しめるも行こうよ!」
匂いの出所は…ここかな?
ポップコーンマシン。
マシンのガラスには文字が記載されてる、ここでは塩味を提供してたみたい。
近くで聞いてみればぽこぽこと種が跳ねる音が聞こえてくる。
ポップコーンがマシンのガラスぎゅうぎゅうに詰められてる…ので、
多分詰められたポップコーンがヒーターに焦がされていることが匂いの原因だろう。
扉を開けてしまえば流れ出てくることは容易に想像できるし、
近くには赤と白のラインが入った紙のボックスも用意されていた。
🪞「わあ、ほんと。焦げ臭い…。
原因は……うん、これだろうねえ。管理がずさんだなあ。
食べたい子、いる?」
ベルちゃんに手を引かれてやってきたメルちゃんが、扉に手をかけた。
👻「ポップコーンはす、すきだけど…
これ…開けたら大変なことになっちゃうんじゃないの…!?」
🪞「いいんじゃない? 廃墟だし」
☎️「はーい!はい!たべたーい!」
🪞「あ。埋もれちゃいそうな子はわたしがだっこしておこうか」
有無を言わさず勢い良く放たれた大量のポップコーンが、流れ出していく。
マシンの中にも落ちていないポップコーンがまだまだ残っており、そっちなら食べられそうかな。
🌈「わあ〜〜!食べ放題なのら〜!!お金あんまりないけろ…ちょっとだけレジにいれておくのら!
えへへ、いただきま〜す!のら」
☎️「あ!ベルもベルもー!いっただきまあす!のら!」

紙のボックスへ山盛りのポップコーンを、スライムの手で器用に口へ運ぶ彼女。
アツアツなのら〜!なんて言ってはふはふしているけれど、
じぇりぃちゃんは今塩味のスライムになったんだろうか。
こぼれ落ちたポップコーンの大半はカウンター裏に行き着いたようだが…
何かが埋もれていた。ポップコーンの芳醇な香りに混じって、肉の腐ったような匂い。
ふがふがと藻掻く合間に垣間見える手は緑色で、やっと掻き分け出てこれた…と思えば、
その目は虚ろに焦点がズレている。そういえば、頭からは脳であろうピンク色が露見していた。
…紛れもない、人型のぐろっきーずだ。
🪞「おや。隠れていたとは」
はじめに気づいたメルちゃんがぐいっとぐろっきーずを引き摺り出した。
👻「ヒッ!こんなとこに隠れてやがったの!?キモチワル!!!」
ふわわ、って包丁がポルターガイストで浮かび上がっている。
こっちも戦闘準備は万端みたい。
ガンバレガンバレ〜俺は戦闘向きのモンスターじゃないから後ろに控えさせてもらうね。
そのままメルちゃんがぐろっきーずの胴に重い一撃をお見舞いすると、
アムちゃんの包丁がひゅん!と宙を舞い敵の頭へ次々命中していく。
的当てなら100点満点の連携だ。
ぴくりぴくろと痙攣して、あえなく敵は息絶えた。
☎️「あらら〜…ベルがりんりんさせる間も無く倒しちゃった!
え〜っと…全部で5ひき!いるんだよね?じゃあ今1コやっつけたから〜…残り4ひき!」
👻「ベル大正解〜…これがあと×4もあるなんて面倒だし気持ち悪いしで、
わあ〜ワクワクしてくる。ほんとに。
数的有利こうやって取り続けられたらいいけど」
まだ生きていないかと、ベルちゃんが足でつんつんとぐろっきーずの死体を確かめるも返事はない。
さて、次はどこにいるのかな…
ブーー。
突然けたたましいブザー音が鳴り響いて、アナウンスが続く。
「みな mi み皆サ様にお知らせいたします。
只今ま末より4番シア死ターのご入場ょ案内を開始ぁいたします。
チケットをoお持ちのおk客様は___」
穏やかな口調のアナウンスが逆に不穏なそれは、
所々ノイズやバグったような放送を度々繰り返す。
それでも、ぐろっきーずに言葉を介す程の知能はない。
奴らが流しているのでは無く、きっと壊れているんだろう。
☎️「よんばん…あっちだね!
そういえばまだシアターの中って見てないよね…
ぐろっきーずが映画みてるかも!行ってみよー!!」
▷アム・エンヴィー
4番と書かれた入り口を潜って通路を抜けて、比較的こじんまりした小さなシアターへ。
スクリーンには軽快でキャッチーなリズムにのせなにやら広告が流れている…
ポップコーンに新しい味が登場しただとか、今度放映される映画の予告だとか、
普通利用する時は席に着いていなきゃいけない。
それが普通ですよね〜…。
でもアムたちはお構いなしに座席の合間にぐろっきーずがいないか探していく。
仕方ないじゃない映画を見に来たんじゃないもん!
🌈「ふむふむ〜…ざーっとみたけろ、このシアターにはぐろっきーずいないみたいなのら!
んむ?あららー映画始まるところなのら?せっかくだからみていきたいのらー!」
気づけば地味に長い予告のパートも終わって、上映前最後の注意事項を伝えるパートに入ったようだ。
撮影・録音の禁止、前の席を蹴らない、おしゃべり禁止、
音や光のでる電子機器はマナーモードに…最後に館内は喫煙禁止なこと。
もちろんいっせいにメイ・パールドールへ視線が向けられた。
🚬「…知ったこっちゃないかなあ?」

ブザー音が鳴り響いて、喫煙者に対する警告ではなく
映画が始まる合図だったのだと理解すれば場内の明かりがゆっくり落とされていく。
つい腰掛けてOPに配給会社のロゴを眺めてしまったのは暗闇に乗じて秘密にしておいてほしい。
でも立って見てるのパールドールだけだし!ベルも甘雨もメルちゃんも座ってるから!
始まったのはクラシカルでコミカルな古き良きアニメーションで、
ノイズのかかったようなBGMは陳腐だけど味があって…ベルは特に楽しそうに見入っていた。
☎️「きゃははっ、みてみておなかがふくらんでお空飛んでるー!
ベルもいっぱい食べたらああなっちゃうかなあ!」
いやいや、さっき上映中のおしゃべり禁止って書いてた…
まあベルが見ながら静かにできるタイプじゃないのは考えればすぐわかることだったか…。
そういえばついスクリーンに気を取られていたけれど、
そういえばこれはどこから映し出されているんだろうか。
いや、映写室からであろうことは流石にわかるんだけど、
問題は”誰が”流してるか。
👻「まあ、想像つくけど…
偵察…いたら すぐ 逃げれば良いよね」
座り心地のいいO-8K席からふわりと飛んで、小さな小窓しか伺えないそこへ壁を無視して辿り着く。
だって逃げるだけならこの体は物理無視なんだから、
ちらっと顔を覗かせるだけならと思うじゃない。
はじめに感じ取ったのは、刺激臭。
臭すぎキモすぎアムの鼻死んじゃうんだけど!?いやアムゴーストではあるんだけどさ。
そんでもって目があったのはヒトガタのぐろっきーず達。
いち、に、さん…4体がかたかた音を立てて作動する映写機のとなりで、小さく蹲っていた。
ああいますよねアムだもんそうですよねはずれくじを引きますよね、最悪。
👻「くさ…!!ゴミ…!!ガチなんなのさよならすぐ帰るんで!!!???」
すぐにまた壁から透けて逃げようとするも、ぶつかったのは壁。
👻「…え?壁?」
どうして?なんで?
体が、すり抜けていかない。
足は無いゴーストのままなのにどうして通り抜けられないの?
モンスターの能力が使えないの?
嫌、そんなのちょっとまってよ…!
がんがんと壁を叩いても、ぐろっきーずに蹴り飛ばされても、
跨られて一方的に殴られても、体のあちこちを齧られ貪られても、
一行に透けていく気配を見せない体は 以前として実体を持ったままで。
👻「イヤっ…イヤ、たすけて、
たすけてメル…!!みんな…!!!」
これじゃあただのリンチじゃないの。
鈍い殴打音といっしょになにか飛び散る。
血?涙?なんでもいい、気持ちの悪いなにか。
ねえアムの顔がもっと歪んでったらどうしてくれるの?
ああ、こんな風に死んでくんだったら、
せめてもっと可愛い服を着ておいたらよかったかもしれない。
ずっと勇気が出なくて、恥ずかしくて素直になれなかったけど。
アムだって愛沢や甘雨みたいに好きな服を思いっきり着てきらきら出来たら、
幾分かはマシな気持ちだったのかな。
いや殴られるために可愛い服を着たいって言ってるわけじゃ無くて、
ああいっつもそうアムってば誰に言い訳してるんだっけ?
でももし似合わないとか笑われたらって想像して、怖くなるの。誰に?誰にでもいい!
自分に自信が持てなきゃ人生なんてなんにも楽しくなれないんだ。
いっつもそう、自分のこと認めてあげられない。アムは自分のこと好きになりたかっただけなのに!
なのにどうしていつもこいつらは、お構いなしにアムの大事なものを壊していくの?本当に嫌。
入学の時にオーダーしたふりふりの可愛いお洋服も、
アムのパパとママも、アムの足だってそもそもこいつらに奪われたも同然だ。
アムだってかわいい靴を履いてバスに乗れればよかった。
せめて、せめて一矢報いたい。
だってこいつらきもいしむかつくから。
普段はポルターガイストで操る包丁を、ざくり。
こいつらの脳天へ順番に突き刺した。
…2体しか殺せなかったけど。
ぴゅ〜って気持ち悪い返り血が噴き出てて本当に最悪!!
きもい、嫌い、ダサい。憎い、疎ましい!
言える限りの罵詈雑言を浴びせてやりたいところなのに、
残り2体もぶち殺したいところなのに、…もうアムの体じゃ全部はできないみたい。
どん、どんって壁の向こうから音が聞こえる。
きっとメルが助けにきてくれてるんだろうけど、たぶんアムは…
👻「アンタたちのこと、ずぅ…っと恨んでやるから」

▷キャラクタロストの為、プレイヤーを変更します。
▷沈香堂凍メル
どたどたと響く騒音にまじって、アムちゃんのものであろう小さな悲鳴が聞こえる。
🪞「アムちゃん、どうしたの!」
返事はない。
いつもならすぐに壁を通り抜けて帰ってくる彼女に何かあったことは明白だ。
なら急がなきゃ、今行くようアムちゃん。
🚬「どーするメルちゃん?
あそこにいけるドア探さなきゃ」
🪞「離れててねえ、メイくん。
いま道作るから」
🚬「…ん??」
どん、ばき、めしっ!
殴って蹴ってを繰り返し壁に穴を開けていく。
わたし怪力も使えるモンスターでよかったなあって思っちゃった。
🚬「! …スクリーンが」
なんだかいつもより不安そうに、真っ白な顔がちょっとだけ青白くなって、
メイがスクリーンを見るものだから一瞬振り返る。
そこにはさっきまでおもしろおかしい白黒カートゥーンアニメが流れていたのに
今は赤黒い血がべっとりと映し出されていて、
じぇりぃせんぱいが咄嗟にベルの目を隠していた。
きっとアムちゃんの血だ。飛び散って、映写機だか小窓だかにはねてしまったんだろう。
なんだか ぴきって切れたかんじがあって、おててに力が入る。
そのおかげか無事にトンネルが開通して、
そこにはぐろっきーずに貪られている、ぐちゃぐちゃになった、アムちゃんの…
🪞「おまえたち、お邪魔だよ。しんでね」
おめめでぎんって睨みつけて、徐々に敵が倒れていく。
ちょっと、メルの大切なおともだちに覆い被さらないでね。
ぐろっきーずだったお肉たちをぽいぽい放り出して、
ぬいぐるみ みたいにていねいに彼女をだっこする。
まだほかほかしてる。
これはぐろっきーずにもみくちゃにされてたからなの?それとも元々の体温?
…どっちにしろアムちゃんは動かなかった。
心臓のおとは何度耳に当てても聞こえないし、
あちこち血で真っ赤になっちゃった。
🌈「あ、あむ……そんな、ひどいのらッ…う、うええ”……!!」
☎️「なあに、アムがどうかしたの?おケガしたの?
学校とびょういんにおでんわしようか…!?じぇりぃ、おめめ外してよー!」
🚬「…ぐろっきーずの討伐は済んだ。
規定の5体はもう殺したんだから、バスに戻らなきゃなんじゃない、の」
そういえば学園長からそんなこと言われてたかも。
倒れてるぐろっきーずは4体…そっか、
それじゃあもうここを調べる必要はないんだねえ。
🪞「戻ろうかあ。アムちゃんもいっしょに」
かわいそうに。ぱふぃせんぱいもこうやって死んじゃったのかな、痛かったろうに。
…守るよって言ったのになあ。
バスの前まで来れば、モニターが反応して学園長が映る。
🧬「報告を。…4名か?」
🚬「…そう。4名。ぐろっきーずは5体殲滅済み、
もうここの映画館は安全だよ。多分ね…とっとと帰るよ」

▷???
っとまってくれ、一瞬だけ匂わせておかなきゃ。
ん?これじゃあ黒幕みたい?でも映画ならちゃんとこういうカットを入れて仄めかしておかなきゃだろ。
アム・エンヴィーの服のポケット、青色のUSB。
言ったからな。それだけ。
待てまさかUSBを知らない世代はいないよな?フロッピーじゃないだけいいだろって言いかけて、そういえばアム・エンヴィーと一緒に見たしこっちでは普通に使ってるんだっけ?どうでもいいか?
関係ないけどフロッピーディスクは可燃ゴミらしい。 じゃあな
←
∧_∧
∧_∧・ω・`) ↑
↓ ( ・ω・`)・ω・`)
く| ⊂)ω・`)
(⌒ ヽ・`)
∪ ̄\⊃
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