

Pity kitty high school

▷愛沢・ぺてぃ・らびぃ
きん、こん、かん、こん。
放課後のチャイムが鳴って、眼鏡を置いた。
今日も有意義な訓練ができた。
部活用の体力育成基礎メニューにトラックの使用許可を出さなければ...
そんなことを考えながら来年度のモンスター科名簿に視線を移した。
固い表紙をめくれば、昨年度に撮った集合写真が挟まれている。
愛しい生徒達の学生証控えの一番上に差し込まれたその写真は
青空の下屈託のない笑顔を向けていた。
🧬「...今年の1年生はどうなることか」
ため息をついてもう冷めてしまったコーヒーを手に取った。
まだ新学期まで時間はあるが、今一度生徒達のプロフィールや
能力を把握しておかねば訓練どころの話ではない。
それぞれ違った能力を有した才能あるモンスター達を育てるのだ、
教育者側がコピーアンドペーストではいただけないだろう。
先ほど置いた眼鏡を再び手に取り、目を通す。
🧬「ふう、こんなところか。該当箇所は記憶した、次は...」
こんこん。ノックの音に今更気づいて、大きなため息が続いて響いた。
💘「もうママったら!ねーえっコーヒー淹れたから開けてよ〜う」
🧬「ぱふぃか。入れ、ちょうどひと段落したところだ」
わたしの声に反応してにんまりとした顔で入室したのは、
娘のぱふぃ。最近体調を気遣っているのか、
こうして休憩を促してくるようになった。
💘「はぁい失礼しまあ〜す。あっ、それぼくたちの資料?
わあー1年のコもいる!仲良くなれるかな、学校案内するのが楽しみ〜っ」
💘「...ね、まだ下校のチャイムまで時間はあるけど...今日はゆっくり休んだら?ね。
新学期の前に倒れたりしたら大変でしょ。体調管理もお仕事のうちだよ、
愛沢・ぺてぃ・らびぃ学園長!」
🧬「それも、そうだな。
では明日の業務開始自時刻を20分早く切り上げて...」
💘「ま〜...いっか。休んではいるし。張り切っちゃうのもわかるけどほどほどにしてよね?」
心配する娘の声をよそにコーヒーをマドラーでかき混ぜる。
溶け切らなかった砂糖がコーヒーの中を砂浜のように舞い上がるなんともマーブルな世界が広がっていて、
啜りながらぼんやりと外へ意識を向ける。
もう外はすっかり暗く、その中でも窓の先の桜は蕾をつけ日の光を待っている。
...自然のものがコロニー内に存在するわけもなく、人工的に立体映像で作り出したものだが。
かつての人間は花を愛でて季節を感じたんだとか。
ぱふぃが「学校は絶対に サクラ がないと青春っぽくないー!
どのアニメにも雨みたいに降ってるもん!ぼくもぼくもぼくもー!!」
なんて騒ぎ出したことに加え種の保存を目的に設置したものだったが、
なかなかどうして、美しい。
入学はもうすぐだ。その先にあるわたしの夢の果ても。
🧬「諸君らとの出会いを、心待ちにしておこう」